ルパンファンとジブリファンなら一度は見たことがある名作『ルパン三世 カリオストロの城』。
その舞台であるカリオストロ公国は、架空の国でありながら、まるで実在するかのようなリアルな描写とヨーロッパらしい美しさで、多くの人の心をつかみました。
では、カリオストロ公国のモデルになった国や城は実際に存在するのでしょうか?今回は、その謎に迫りつつ、考えられるモデル候補を徹底的に紹介していきます。
この記事の目次
『カリオストロの城』とは?
『ルパン三世 カリオストロの城』は1979年に公開された長編アニメーション映画で、宮崎駿監督にとって初の劇場用映画監督作品でもあります。詳しくはこちら↓
泥棒紳士ルパン三世が、謎の小国カリオストロ公国で繰り広げる冒険とロマンスが描かれています。
物語の舞台であるカリオストロ公国は、山と湖に囲まれた美しい公国で、古城や街並みの描写が非常に印象的。リアルでありながら幻想的でもあるその風景は、多くの人に「本当にある国なのでは?」と思わせるほどの説得力を持っています。
カリオストロ公国のモデルとされる国・地域
結論から言うと、宮崎駿監督は自身のヨーロッパ旅行の経験をもとに、“架空のヨーロッパ小国”をイメージしてカリオストロ公国を描いたと語っています。
つまり、特定の一国や実在の城を明確にモデルにしたわけではなく、いくつかの国や建築の要素を組み合わせた、ファンタジー的な設定なのです。
その上で、ファンや研究者の間で「モデルになったのでは?」とされる国や城を調べてみましたので、ご紹介します。
◆ モナコ公国やルクセンブルク公国
どちらもヨーロッパに実在する小さな公国であり、高貴な雰囲気と独立国家としての存在感が共通点。とくにモナコは山と海に囲まれた地形や、カジノを含む観光地としての一面が、劇中のカリオストロ公国と重なる部分があります。
なお、宮崎駿監督自身がこれらの国を明言してモデルと語ったことはなく、あくまでファンや研究者の間で「似ている」とされている例です。
◆ スイス:レマン湖畔のシヨン城(Chillon Castle)

レマン湖の湖畔に建つシヨン城は、まさに「湖上の城」。劇中に登場するカリオストロ城のビジュアルと非常に似ており、地下に牢獄がある構造も共通しています。スイスの自然と石造りの建築美は、まさに映画の世界観そのもの。
この城についても、宮崎監督が直接言及したことはありませんが、美術監督・小林七郎氏をはじめとする背景美術スタッフが、スイスの風景を資料として研究していたことが知られています。
◆ イタリア中部:サンレオ城(Forte di San Leo)
崖の上に築かれた城塞都市で、劇中のカーチェイスシーンを連想させるような断崖絶壁の風景が広がります。また、この城には18世紀に実在した詐欺師「カリオストロ伯爵」が幽閉されていた歴史もあり、名前の由来と合わせて非常に興味深いモデル候補です。
背景美術の一部でも、イタリア中部の街並みや風景が参考にされたとする考察がありますが、これも公式には明かされていない部分です。
◆ フランスの古城

明確に「この城がモデル」とはされていないものの、フランス各地に点在する中世の古城や石造りの街並みは、背景美術の参考として用いられた可能性が高いとされています。特にノルマンディー地方やロワール渓谷などの風景は、映画の雰囲気と共通する部分があります。
宮崎監督や美術チームは、当時の資料集やヨーロッパ旅行の記録などをもとに、これらの要素を組み合わせて“理想のヨーロッパ小国”を描き出したと言われています。
◆ ドイツ:リヒテンシュタイン城(Schloss Lichtenstein)
ドイツ南部の断崖絶壁に建つ小さな古城。中世の騎士物語にインスピレーションを得て19世紀に再建されたネオゴシック建築で、その幻想的な姿は「空中の城」とも称されます。
特に、崖の上に建つ構造や深い谷をまたぐ橋は、映画『カリオストロの城』の城に酷似しており、ファンの間では“隠れモデル”として語られています。公式に言及はされていないものの、ビジュアルの共通点は非常に多く、現地を訪れると作品世界への没入感を強く感じるスポットです。
◆ ドイツ:プファルツ城(Burg Pfalzgrafenstein)
ライン川中流の中洲に建てられた、まるで川に浮かぶような独特な城。1326年、通行税を徴収する関所として建設されたこの城は、軍艦の形を模しており、多角形の城壁が特徴的です。
実はこのプファルツ城について、宮崎駿監督自身が「カリオストロ城の基本設定の参考にした」と語っている非常に貴重な事例があります。特に、修復前の“うす汚れた姿”に強く惹かれたとされ、劇中に登場する“水に囲まれた白い古城”のイメージと重なります。
これにより、プファルツ城は『カリオストロの城』のデザインの源流として、最も信頼性の高いモデル候補のひとつと言えるでしょう。
カリオストロ公国は“架空のヨーロッパ”

美術監督の小林七郎氏らが手がけた背景は、ただ写実的なだけではなく、「こんな国があったらいいな」と思わせる夢のようなヨーロッパ像を描いています。
また、宮崎駿監督は実際にヨーロッパを旅し、その印象を元に“理想化されたヨーロッパ”を構築したとも言われています。そのため、実在の風景を参考にしながらも、どの国にも完全には当てはまらない独特の世界観が出来上がっています。
なぜ“カリオストロ”という名前なのか?
「カリオストロ公国」という名称は、実は18世紀に実在した人物――カリオストロ伯爵(Count of Cagliostro)に由来すると言われています。彼の本名はジュゼッペ・バルサモ。イタリア出身の錬金術師・医師・占星術師・詐欺師として知られ、ヨーロッパ各地で神秘的な術を使って人々を魅了し、貴族の間でも名を馳せました。
特に、偽の貴族名を使い、錬金術や不老長寿の薬を売っては金銭を得るなど、その行動はまさに“幻想と欺瞞”に満ちたものでした。結果的に、カトリック教会から異端とされ、バチカンに逮捕され、先ほども登場したイタリア中部のサンレオ城に幽閉されてその生涯を閉じたという波乱の人生を送っています。
『カリオストロの城』というタイトルは、こうした実在の“詐欺的カリスマ”の名前を冠することで、劇中に登場する偽札製造の陰謀や、表向きは華やかだが実は闇のある貴族社会の構造といった物語のテーマを象徴させていると考えられます。
つまり「カリオストロ」という言葉には、美しく荘厳な外見と、その裏に潜む虚構と欺瞞という二面性が込められており、映画の世界観を体現する上で非常に深い意味を持っているのです。
カリオストロ公国の聖地巡礼地 5選
『カリオストロの城』の世界観に通じる風景は、実は現実世界にも存在します。以下のスポットは、映画の美術や舞台設定にインスピレーションを与えた可能性がある場所であり、ジブリファンなら一度は訪れてみたい“聖地巡礼地”です。
シヨン城(スイス)
レマン湖に面した「湖上の城」として有名で、映画に登場するカリオストロ城の構造と非常によく似ています。特に地下牢や湖にせり出した建築は、劇中シーンと重なる部分が多く、ジブリスタッフが参考にしていた可能性も指摘されています。
サンレオ城(イタリア)
断崖の上にそびえる要塞都市。実在した「カリオストロ伯爵」が幽閉されていた歴史を持ち、名前の由来という意味でも非常に重要な地です。映画中のカーチェイスシーンや、城の険しい立地は、この城を彷彿とさせます。
ロワール渓谷の古城群(フランス)
フランス中部を流れるロワール川沿いには、中世からルネサンス期にかけての美しい古城が数多く点在しています。とくにシュノンソー城やアンボワーズ城などは、他のジブリ作品(例:『ハウルの動く城』など)でも美術のインスピレーション元とされており、『カリオストロの城』にも通じる“理想のヨーロッパ”の要素が色濃く残っています。
リヒテンシュタイン城(ドイツ)
南ドイツ・シュヴァーベン地方に位置するリヒテンシュタイン城は、断崖絶壁の上に建てられたネオゴシック様式の小城で、まさに“空に浮かぶ城”のような幻想的な外観が特徴です。
19世紀に中世の騎士物語に感銘を受けたドイツの貴族によって再建されたこの城は、小さな規模ながらも尖塔やアーチ、石橋など、映画『カリオストロの城』に登場するビジュアルと重なる要素が多数存在します。
崖を渡るように設けられた吊り橋や、城の背後に広がる深い谷などは、劇中のカーチェイスや終盤の橋のシーンと非常に類似しており、現地を訪れると映画の緊張感とロマンを体感できます。
観光客向けの見学ルートも整備されており、写真映えするスポットとしても人気です。
プファルツ城(ドイツ)
ライン川中流の中洲にポツンと建つこの小城は、正式には**プファルツグラーフェンシュタイン城(Burg Pfalzgrafenstein)と呼ばれます。
1326年、神聖ローマ皇帝によって通行税を徴収する“水上の関所”**として建設されました。軍艦を模した多角形の形状、レンガと漆喰の城壁、そして“川のど真ん中に浮かぶ”という独特のロケーションは、他のどの城にもない強烈な個性を放っています。
そしてこの城こそが、宮崎駿監督が「カリオストロ城の基本設定の参考にした」と明言した唯一の城。監督は修復前のうす汚れた外観に特に惹かれたと語っており、映画に登場する“白くて孤立した古城”のイメージに直結します。
現在は白く清掃され観光名所として整備されていますが、映画公開当時の荒涼とした雰囲気に思いを馳せながら見ると、まさにカリオストロ城の原型を感じることができます。
これらの場所を巡れば、まるでジブリの世界に迷い込んだかのような気分を味わえるはず。映画の世界観に浸りながら、その美しい風景と歴史を体感してみてください。
もうひとつのモデル? 江戸川乱歩の『幽霊塔』
映画『カリオストロの城』の建築構造やクライマックスの舞台装置には、もうひとつ大きな影響元が存在します。それが、日本の探偵作家・江戸川乱歩による小説『幽霊塔』です。
この作品は、イギリスの小説『灰色の女』を元に、江戸川乱歩が1937年に書き直した怪奇ミステリーで、巨大な時計塔や秘密の通路、歯車仕掛けの構造、ロマンスと怪奇が交錯する演出などが描かれています。
宮崎駿監督は中学生時代に『幽霊塔』を読み、この物語に強い影響を受けたと語っています。特に“時計塔の仕掛け”や“地下牢の迷路構造”は、映画『カリオストロの城』の舞台設定に通じる要素として明確に反映されています。
2015年には三鷹の森ジブリ美術館で「幽霊塔へようこそ展」が開催され、宮崎監督自らが企画・構成を担当。展示の最後には『カリオストロの城』のジオラマが設置され、両作品のつながりが強調されました。
つまり、カリオストロ公国という“幻想のヨーロッパ小国”の背後には、西洋建築の影響だけでなく、日本の通俗小説的世界観や機械仕掛けのロマンも織り込まれているのです。
まとめ:カリオストロ公国の正体は“理想のヨーロッパ”
映画『カリオストロの城』に登場する“カリオストロ公国”や“城”は、実在するどこか一国や一つの城を忠実に模したものではありません。
**宮崎駿監督自身が「ヨーロッパ旅行の体験から着想を得た」と語っているように、さまざまな地域や建築の要素がミックスされた、空想と現実の間にある“理想のヨーロッパ小国”**なのです。
そのうえで、私たちは映画の世界観に重なるような実在の場所を数多く発見することができます。
- スイスのシヨン城のような湖上の美しさ
- イタリア・サンレオ城の断崖絶壁のスリル
- ドイツ・リヒテンシュタイン城のネオゴシック建築と浮遊感
- そして、宮崎監督が「基本設定の参考にした」と語る唯一の城・プファルツ城。
さらに、江戸川乱歩の『幽霊塔』に影響された“時計塔や地下構造”の演出も物語世界に深みを与えています。
つまり、『カリオストロの城』は一つの場所や建築様式にとらわれることなく、さまざまな文化や建築、物語世界を融合した“創作の極致”とも言える作品。それこそが、今なお世界中のファンを惹きつけてやまない理由です。
もしあなたがジブリの世界をもっと深く感じてみたいのなら、これらの“モデルとされる場所”を訪れてみる旅に出るのも素敵かもしれません。
空想と現実のあいだで、カリオストロ公国はいつだって私たちを待っているのです。